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2018.07.18

【海外事例】制を回避するために取った「ミャンマービール」のユニークな広告戦略とは?

【海外事例】制を回避するために取った「ミャンマービール」のユニークな広告戦略とは?

敬虔(けいけん)な仏教国ミャンマーでは従来から酒類の広告に規制を課してきましたが、政府はこの方針を強化しました。しかし、ミャンマーでビールの国内シェア90%以上を占める「ミャンマービールブリュワリー(以下ミャンマービール)」は規制をきっちりと守りながらも、高い効果をあげる”広告戦略”を展開し成功へ導きました。そのユニークな広告手法の秘密に迫ります。

仏教が禁ずる飲酒を政府も規制

仏教は日本でも比較的馴染みがある宗教のひとつですが、日本では戒律に対しあまり意識がないかもしれません。しかしタイやミャンマーのような仏教国では、基本戒律のひとつに「禁酒」があるため、飲酒をあまりよいことと捉えていません。
また、これらの国々でも温度感が違い、酒類が買える時間帯を限定するといった措置をとっているタイに比べると、ミャンマーは酒類への規制はあまり厳しくありません。これは長く鎖国に近い軍事政権が続いていたため、社会全体の保守傾向が強く、規制しなくとも飲酒する人がそれほど多くなかったという背景があります。

ところがミャンマーも民主化が進み、飲酒がきっかけとなった犯罪も増加。2015年10月には政府がメディアの責任者を呼び出して”酒類の広告中止”を要請するなど、規制強化に手をつけ始めました。規制強化とはいっても、「酒の図像を使った広告禁止」などといった具体的なガイドラインを明文化したわけではなく、常識の範囲で規制してほしいと各メディアに注意を出した形です。

規制というよりは注意勧告に近い中途半端なものですが、ミャンマーではよくあることで、実際にこの時期よりミャンマーでは酒類の屋外看板からお酒の姿が消えました。

下の写真が、規制強化後のミャンマービールの屋外看板です。


看板のビルマ文字は、上段が”タヤーピュー”という食料品店の店名で、下段は”サイン”、ビルマ語で「ショップ」を意味します。

日本人がこれを見ても、ビールの広告とはおわかりにならないでしょう。これが「ミャンマービール」がとっている、いわば「カラーイメージ広告」とでもいうべき戦略なのです。
ロゴもビールの絵も何もなくグリーン地に流線の模様があるだけ。日本ではまずあり得ない、この広告がミャンマーで成功した3つの要因について解説します。

 

ミャンマーでは看板も課税対象

まず1つ目の要因として、ミャンマーの特殊ともいえる税制「看板税」があるということです。自分の店であっても、看板の大きさや出す場所に応じて相応の税金がかかってくるのです。

資金力のある大手企業や大規模店舗は自社のロゴをあしらった大きな看板広告を掲げますが、小さな商店や飲食店にとっては看板税はそれなりに負担です。
そこでミャンマーでは、店が扱ういずれかの商品メーカーが看板にかかる費用を負担するのが一般的になっているのです。それによって店側は看板税を払わずにすみ、企業側といえば路面の看板広告よりも安い金額で高い効果を得られるので、双方”ウィンウィン”の関係ともいえるでしょう。


上記写真の場合は、向かって左が「化粧品ニベア」、右は「コカコーラ」の広告ですが、お店は各々雑貨店と食料品店です。ビルマ語で書かれている文字が店名ですが、実質的には両企業の広告といえます。

ちなみに、下記の写真は規制が強化される前に設置されていた看板。
この頃は、ドット模様で濃淡をつけたグリーンにミャンマービールの「ロゴ」と「写真」をあしらっており、いかにも酒の看板広告というものでした。

 

アルコールは販売許可制

2つ目は、酒類販売の”許可証取得”の難しさ。アルコールを取り扱うには許可証を取らねばなりません。さらに許可証の種類は非常に細かくわかれており、ウィスキーとビールの両方を扱いたければ別々に必要となってきますし、ビールでも”生”と”瓶”では種類が異なるのです。

新たにライセンスを取得するには困難を極めるため、新規開店する際は、既に許可証を持っている人から権利を買うのが一般的です。しかし、民主化で外資系飲食店の進出が加速してからはライセンスが”高騰”し、100万円近くでやり取りすることもあるほどです。

このような状況下のため飲酒できる店は限定されており、看板広告だけでその店がどの酒を取り扱っているかわかること、というのが集客に直結してくるのです。規制後、筆者もビールが飲みたい時は大通りを車で走らせながら沿道にグリーン地で赤い流線がある看板を探します。

 

ミャンマービールの圧倒的優位性とイメージ強化

3つ目は、ミャンマーでは流通しているビールの種類が限定されていることがあります。
飲食店が提供する瓶ビールや生ビールの場合、かなりマイナーなものも合わせて10種類ほどしかありません。しかし、それは逆に各銘柄が他社と区別する”自社のシンボルカラー”を作りやすいということがあげられ、さらに国内シェア90%以上のミャンマービールにとっては有利に働く状況となったのです。

そして、ミャンマービールの宣伝戦略の巧みさは、シンボルカラーに合わせて視覚的に残りやすい特徴的な赤い流線模様を置いたこと、看板以外の広告媒体もすべてこのデザインを共通に用いるようにしたことです。規制強化以降はこのデザインに統一し、ロゴや写真がなくなってもミャンマービールをイメージさせることに成功したのです。

同社以外の酒造メーカーが出しているビールに”ダゴンビール”があります。ここもミャンマービールと同じグリーンを使っており、そこへライオンマークのロゴを入れるのが定番でした。
しかし、ミャンマービールと異なり、ロゴなどを入れない限りダゴンビールの特徴を出すのが困難になってしまいました。

 

流動的な規制の運用にも対応可能

ビールの図像どころか「ビール」という文字や会社のロゴさえもないにもかかわらず、ミャンマービールをイメージさせる広告普及に成功した「ミャンマービール」ですが、ここ1年ほどで”ロゴのみ”をあしらった看板に切り替えてきています。

というのも、ミャンマーではよくあることなのですが、新しい規制が入るとまずは遵守し、同業他社の動向や当局の顔色を見ながら徐々にやり方を緩めていくのです。酒類の広告規制に関しても、当初はきっちり対応したものの、ここにきて少しずつ露出を増やしてきていると推測できます。

こちらはミャンマービールでワンランク上のブランドである”プレミアム”の雑誌広告です。プレミアムのイメージカラーであるゴールドにロゴを置き、さらにビールのシルエットを入れています。
現時点の限界とも言えるぎりぎりまで規制に踏み込んだ広告となっています。

 

今後、酒類の広告規制が再び強化される可能性は多分にあります。しかし、ミャンマービールが展開しているような、シンプルなシンボルカラーと特徴的な流線デザインのみで広告を統一しておけば、その時の状況に合わせ、ロゴやビールの図像を入れたり、または省いたりと臨機応変に対応できる上にメーカーとしてのイメージを損なうこともありません。
広告規制がある国や、規制の運用が流動的な国では非常に有効なやり方といえそうです。

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